深夜のカップラーメン論争

深夜のレジ劇場

0時14分。静まりかえった深夜の店内。

中村 「……なあ、店長。」

店長 「なんや、またカップラーメン棚の前で腕組んで、悩みの深さラ王クラスやないか。」

中村 「いや、ちょっと待ってください。ラ王を“悩みの深さ”の単位にするの、どこの地域だけですよ?」

店長 「うちの店や。」

中村 「出た、店内ローカルルール。」

店長 「ええから言うてみぃ。どうせまた、夜勤中の“どのカップ麺食うか会議”やろ。」

中村 「そうなんすよ。今夜は心が…豚骨を欲してる気がするんですけど、身体はあっさり系を求めてる気がして…。実は最近、家でもちょっとギスギスしてて…こう、あったかいもんにすがりたい夜ってあるじゃないですか。」

店長 「ほな、塩ラーメンにしとき。心にも身体にも、ちょーどええ。」

中村 「いやいやいや! 塩ラーメンは優しすぎて、今の俺には響かんのですよ。今夜はもっと…こう、ジャンキーで背徳感あるやつ。」

店長 「なるほど。…つまり、おまえ、人生に迷ってるな?」

中村 「なんでそうなるんすか。」

店長 「夜中のラーメン選びはな、その人の“今の人生の状態”が出るねん。」

中村 「ああ〜それ、占い師っぽいこと言うパターンのやつや。」

店長 「ほんまやで。味噌を選ぶやつは、過去と向き合いたい人間や。豚骨を選ぶやつは、現実をぶっ壊したいヤンチャな状態。醤油はな、安定を求める大人。塩は…悟りを開きかけてる坊さん。」

中村 「ラーメンで人生分析するなぁー!!」

店長 「おまえ、今の気分は“豚骨やけど、明日の後悔がチラついてる”ってことやろ?」

中村 「ドンピシャすぎて怖いっす。」

中村 「てか、店長はいつも深夜に何食ってるんすか?」

店長 「わしはな…昔は豚キムチ一択やった。」

中村 「うわー攻めてる!胃袋に鉄板仕込んでます?」

店長 「でも、ある日気づいてん。“背脂は、若さの麻薬や”ってな。ほんで、カップ麺界のナポレオンやと思ってたわしも、気づけばただの塩対応オヤジやったわ。」

中村 「え、名言ぽいけどなんか怖い。」

店長 「だから今は、ワカメスープにおにぎり。『腹を満たすんちゃう、心を落ち着かせる』。これが夜勤のメシ道や。」

中村 「わー!また出た、“メシ道”とかいう謎ジャンル!」

店長 「夜中のラーメンに逃げた時点で、おまえの心はまだ『揺らぎ』の中や。」

中村 「ラーメンで人生語るの、ほんまクセ強すぎるでしょ…。」

中村 「あっ!でもこの“蒙古タンメン”あるじゃないですか!これ、辛さとコクのバランスが神なんすよ。まさに、闇夜に光る彗星…」

店長 「おまえ、その一口目で“今日は寝れんな”ってなるで?」

中村 「う…確かに。しかもあれ、3時ごろに胃から謎の警報出るんすよね。」

店長 「あれは胃じゃない、魂が叫んどんねん。“やめとけ”って。」

中村 「魂にまで止められるラーメンて何やねん。」

店長 「そもそもおまえ、なんでそんなに迷うねん。5分悩んで5分で食うて、5時間後悔するんがカップラーメンやぞ?」

中村 「その三段活用、めっちゃリアルで震えました。」

中村 「でも不思議ですよね、カップラーメンって。寂しい夜ほど食べたくなるっていうか。」

店長 「せや。“誰かにあたたかくしてもらいたい”って気持ちが、湯を注がせるんや。」

中村 「うわ、なんか泣きそう。」

店長 「ラーメンはな、“自分で満たす孤独”の象徴や。寂しさをラップで包んで、三分で希望に変える。」

中村 「今の、ポエムか座右の銘にします。」

店長 「ええか。その湯を注ぐって行為はな、“誰かに優しくしたい”っていう予行演習や。」

中村 「あー…なんかもう、ラーメンが説法に見えてきた。」

店長 「ほな、今の心境で選べ。」

中村 「……これにします。『日清焼そばU.F.O.』」

店長 「え、焼きそばいくんかい!」

中村 「なんかもう…スープごときに人生振り回されたくないなと思って。」

店長 「それ、悟り開いてもうてるやん。」

中村 「塩ラーメンじゃなくて、ソースの方で。」

店長 「でも、U.F.O.選ぶやつってな、“何者にもなりきれへん未完成な魂”って言われてるんやで。」

中村 「また言うたなぁー!!」

中村 「……。(U.F.O.に湯を注ぎながら)」

店長 「……。(ワカメスープにお湯を注ぎながら)」

中村 「…店長?」

店長 「なんや。」

中村 「この“待ち時間”、なんなんすかね。」

店長 「それが“人生の間”や。」

中村 「また出た!“人生の間”とかいう分かったようで分からんシリーズ!」

店長 「ラーメンはな、結果を急ぐやつには向かん。焦って蓋あけたら、麺まだ固い。人生も一緒や。」

中村 「うわ…またなんか刺さるやつ来たわ…。」

店長 「3分って短いようで長い。やけど、その3分をどう使うかで、仕上がりが変わんねん。」

中村 「たかがカップ焼きそば、されど…ですね。」

店長 「この3分間は“未来の自分への仕込み時間”や。けどな、たまに3分過ぎても忘れて放置してもうて、麺どろっどろの刑に処されるんや。お湯入れてからの行動に、人の器が出る。」

中村 「ちなみに店長は、3分間どう過ごしてるんすか?」

店長 「わしは“何もしない”って決めとる。」

中村 「え?」

店長 「スマホも見いへん。掃除もせえへん。ただ…“湯気の向こうの自分”を見つめとる。」

中村 「ポエマーか!」

店長 「ちゃう。あれはな、心を整える時間や。“欲”でいっぱいになった夜勤の脳を、一回冷ますねん。」

中村 「カップ麺に精神修養の要素あるの、店長だけやで…。」

中村 「でもほんま、なんで深夜ってこんなにラーメン食いたなるんすかね。」

店長 「それはな、“空白を埋めたい”からや。」

中村 「空白…?」

店長 「夜ってな、不思議や。昼間は気にならんことが、急に押し寄せてくる。“あの時の一言”とか、“あの人の既読スルー”とか、“貯金残高”とか。」

中村 「やめてー!全部グサグサくるやつ!」

店長 「そんな空白に、ラーメンは一瞬のあたたかさで蓋してくれる。…でもな、それって本当に“満たされた”とはちゃうねん。」

中村 「え?」

店長 「お湯を注ぐことで、心の隙間も埋めようとしてる。でも、それは“ごまかし”や。」

中村 「じゃあ、俺たちは…」

店長 「ごまかしながらでも、生きとる。それでええねん。」

中村 「……。」

店長 「ラーメンのええところはな、誰でも平等に作れるってとこや。」

中村 「確かに。金持ちでも貧乏でも、お湯さえあれば。」

店長 「せや。失敗しても次がある。スープ濃すぎても、水足したらええ。麺が伸びても、“それが今の自分や”って認めたらええ。」

中村 「人生そのものやな…。」

店長 「ラーメン食うてると、そう思えるようになってきたら…おまえ、もう一人前の夜勤バイトや。」

中村 「そんなバロメーターあるんすか!?“ラーメンで悟れるかどうか”!?」

ピピピピッ(タイマー)

店長 「よっしゃ。中村、完成や。」

中村 「あいよ……って、U.F.O.のお湯切り口、開けにくっ!この蓋、もっとちゃんと設計してくれよ!」

店長 「そこがええねん。“簡単にはうまいもん食えへん”って教えてくれる。」

中村 「どこまでも人生やな、この人…。」

中村 「……うまっ。やっぱ夜中のU.F.O.、最強っす。」

店長 「やろ?あれはな、“社会の裏で頑張るもんだけに許された背徳グルメ”や。」

中村 「深夜の背徳感って、なぜこんなにも美味いんすかね。」

店長 「それは、“今日一日を、ちゃんと働いた証”やからや。」

中村 「……。」

店長 「夜のラーメンはな、“自分を肯定する儀式”やねん。“あぁ、今日もよう頑張ったな”って、自分に言うてあげるんや。」

中村 「なんか…泣きそうっす。」

店長 「泣いてええ。深夜は涙に一番、許されてる時間や。」

中村 「…店長。俺、明日からちょっとだけ変われそうな気がしてきました。」

店長 「ええこっちゃ。でも変わらんでもええ。変わらんなら変わらんで、“今のままでもええ”って思えるんも、大事な成長や。」

中村 「また…名言出ましたやん。」

店長 「この店での名言は、ラーメンの数だけあるからな。」

中村 「いや、うちの店カップ麺150種類ぐらいしかないですよ?」

店長 「つまり150個、名言出せるってことや。」

中村 「夜勤、濃いなぁ…。」

―完―

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