まさかのバイト査定バトル!

深夜のレジ劇場

――午前1時30分、Fマート浪速人情店――

(ピロン♪)
自動ドアが音を立てて開いた。
夜勤の中村がいつものテンションで入ってくる。

中村 「おはようございまーっす!……って、店長、何かあったんですか?顔に“めんどくさい”って書いてますけど」

店長 「いやなぁ……中村。来たで、とうとう。これ見てみ、これ……」

店長がボロっとした封筒を中村に渡す。中には、一冊の分厚い冊子。
表紙にはでかでかと書かれていた。

【Fマート全店統一 バイト能力査定マニュアル2025】

中村 「……査定マニュアル!? うわ、出た。本部の“やってる感”シリーズや!」

店長 「お前、口悪いなほんま。でもまぁその通りや。なんやこれ、って思たんやけどな、中見たらな……おもろいでこれ」

中村 「おもろいって……えっ、“接客スマイルの角度を45度に保て”……って、これはアカンやろ!」

店長 「せやろ?極めつけがこれや。“からあげ棒のレジ打ち時間を競うレース形式訓練”やぞ」

中村 「レースて!それもう陸上部のノリやん!」

店長 「ほんでな、明日までにこのマニュアル読んで、各バイトの査定プラン立てろってよ」

中村 「うっわ〜〜〜〜。え、じゃあ僕も査定されるんですか?」

店長 「……いや、むしろ中村、お前は“査定する側”や」

中村 「え?僕が?え?え?査定するんですか?あっはっは、ちょ、それめっちゃおもろいやん!」

店長 「アホか。遊びちゃうぞ。“バイト目線で店長を査定する”とかいう逆査定シートまでついとるんや!」

中村 「出た〜!本部の“平等アピール”!うわ〜〜〜!楽し〜〜〜!!」

店長 「お前、絶対遊びでやるやろ……」

中村 「はい!ではさっそく、第一項目“レジの俊敏さ”からまいりましょうか!」

店長 「ちょい待て、始めんな勝手に!」

――こうして始まった、“深夜の査定バトル”。

◆項目1:レジ俊敏さ

中村 「ではここにからあげ棒1本、あと肉まん1つ。これを僕がレジに置きますので、店長が正確に打つまでの時間を計ります」

店長 「いや、なんやねんそのシミュレーション」

中村 「位置について!よーい……ピッ!」

店長 「チーン!」

中村 「……3秒。はえぇ!」

店長 「当たり前や。20年やっとんねんぞ」

中村 「いや〜、これは評価Aですね。ただし、レジ後の“ありがとおおきに”の声が若干かすれてました。マイナス5点です」

店長 「うるさいわ!」

◆項目2:商品おすすめ力

中村 「では次の査定、“おすすめ力”。店長、僕が“今夜はなんか軽くつまみたい”って言ったら、何をおすすめしますか?」

店長 「ほんなら、冷蔵庫の2段目のポテサラと、焼鳥のももタレ、あとチューハイやな」

中村 「おおお……リアルやな……! ちょっと涙出そうになった……」

店長 「泣くなや!」

中村 「これは文句なしのSランクですね。たぶん僕、今のおすすめで明日の朝3キロ太ります」

店長 「それ評価ちゃうやん!」

――こうして、次から次へとバカバカしい査定が続く。

・レジ袋の開きやすさ対決(湿気のある指vs乾いた指)
・トイレ掃除の詩的レポート提出(なぜか俳句で)
・からあげ棒を両手で挟まずに渡すスマート技選手権

店長 「なんやこれもう……バラエティ番組やないか!」

中村 「いや〜深夜番組よりオモロイですって!」

――午前4時、査定バトルはクライマックスを迎える。

中村 「最後はこれです。“人生において一番大事なレジ対応とは?”この問に、心で答えよ……」

店長 「……難しいな」

しばし沈黙。

店長 「……その日、レジに来てくれた人の“気持ちの温度”に、そっと寄り添うことやと思うわ」

中村 「……店長、それ、ズルいわ」

店長 「なんでや」

中村 「急にええこと言うやんか。ちょっと泣けるやんか」

店長 「そんなん言うてるお前も、今日よう頑張ったで」

中村 「……あざっす。じゃ、そろそろ本気でレジやりますか」

店長 「おう、ほんまの査定は、客が決めるんやからな」

――そして二人は、再びレジの前に立つ。

◆項目3:臨機応変力

中村 「さて、次の査定は“臨機応変力”。これはもう、現場で生き残る術ですよ」

店長 「そらそうやな。マニュアルに書かれてへん“とっさの判断”こそが、現場の真骨頂や」

中村 「というわけで、いきなりですがシミュレーション開始です!題して…『深夜の地獄客対応チャレンジ』!」

店長 「また勝手に始めよった……。なんやそれ」

中村 「店内に“5円足りひん酔っ払い客”、レジ前に“商品のバーコードが読めんやつ”、そして奥から“トイレが詰まった!”の三連コンボが襲ってきます。店長、対応どうぞ!」

店長 「なんやそのパニックフェスティバルは!……ええか、まず“5円足りひん酔っ払い”には、笑顔で『今度おつりで返しときますわ』言うて、財布から俺がこっそり5円出す」

中村 「おお、ポケットマネー解決……!」

店長 「次!バーコード読めへん商品は、型番直打ちしてから、“よかったらこっちの似たやつの方が10円安いですよ”って勧める。そしたら次来た時もそっち買うようになるからな」

中村 「うわ〜、販促込みの神対応!」

店長 「最後、トイレの詰まりはやな、もうバイトの誰よりも早く手袋つけて、“これは俺の仕事や”って顔して突撃する」

中村 「出たー!リーダーの鑑!」

店長 「その代わり、あとで手荒れケア用のハンドクリームぐらいは経費で通してな」

中村 「そこリアルすぎて泣ける!」

――臨機応変力、Sランク認定。
だが、夜はまだ終わらない。

◆項目4:チームワーク&巻き込み力

中村 「店長、これも大事ですよ。“チームを明るく保つ力”。僕が言うのもアレですけど」

店長 「いや、お前が一番明るいわ。というか“明るすぎてまぶしい”まである」

中村 「ありがとうございます!光合成して生きてるタイプなんで!」

店長 「植物かお前」

中村 「じゃあここで“巻き込み力”チェック。さあ、今から僕が急に“店内放送の練習”始めるんで、店長もノってくださいね!」

店長 「え、ちょ……はじまってもうた!?」

(♪ピンポンパンポ〜ン)

中村 「お客様にお知らせいたします。当店では現在、“店長の裏メニューおすすめ選手権”を開催中です。只今のトップは、ポテサラ焼鳥セット!」

店長 「……え〜、それに対抗するのは、深夜限定“梅こんぶおにぎりとジャスミン茶”の組み合わせや。これはもう、疲れた体に沁みる沁みる!」

中村 「おお〜〜〜!いいぞ店長!そのまま夜明けまでしゃべり続けましょう!」

店長 「誰が朝までナレーターや!」

◆項目5:自己成長への意欲

中村 「店長、最後の査定は“自己成長への意欲”ですって。これ、どう答えます?」

店長 「そらもう、毎日自分に“昨日の自分を超える”って言い聞かせてるよ」

中村 「おおお、名言……!」

店長 「でもな……正直、もうしんどい時もあるねん。若い子らに任せた方がええんちゃうかとか、体力落ちたなぁとか……」

中村 「……わかります。でも店長がその“しんどさ”も隠さず言うてくれるから、僕らも頑張れるんですよ」

店長 「……中村」

中村 「でも、あえて言わせてください。店長、査定Sじゃなくて“伝説”です」

店長 「……アホかお前」

中村 「はい!誉め言葉です!」

◆ラストシーン:夜明け前のレジ前で
空がわずかに白み始めた午前4時50分。
常連のハルさんが、いつものように新聞片手に現れた。

ハルさん 「あんたら、何してんの?ずっと笑い声聞こえてたで」

店長 「いや〜、査定ごっこしてましてん」

ハルさん 「あほらし。けど……楽しそうやね」

中村 「ハルさんもどうです?“常連から見たベストスタッフ大賞”とか」

ハルさん 「せやなぁ……ほな、あんたら全員、優勝や」

店長 「……あかん、中村。泣くなよ」

中村 「泣いてません!汗です、涙じゃなくて……その、玉ねぎが目に……」

店長 「売ってへんやろ玉ねぎ!」

笑い声がレジ前にこだまする。
夜が明けても、ここには人の温度が残っていた。

――完。

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